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20年後の麻也子は「愛」より「恋」―『あなたのことはそれほど』と『不機嫌な果実』

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個人的にいいとは思わないけど、世の中で盛り上がっているネタが不倫。

テレビドラマもそんな踏み外した関係についつい興味を持つ人が多いようで、『あなたのことはそれほど』も何かと話題になっている様子。

しかも不倫といえば、既婚男性がスポットを浴びそうなのに、今回は既婚女性。珍しい設定だけれど、観ていて思い出したのがちょうど20年前に同じくTBSで放送されていた『不機嫌な果実』(テレ朝でも放送されてましたが今回は除外)。

欲深いことを知っている女

『不機嫌な果実』は、主人公・麻也子がおもしろくない結婚生活から逃避するためにした不倫をきっかけに、その相手とは別の男を好きになってしまうというのが大まかなあらすじ。

ただ結局、大恋愛の末に結ばれた相手とも結婚してしまえば味気のない日常が待っていただけで、また刺激ある出来事を麻也子は求めてしまいます。

本当は向き合わなければならない現実から逃げるために、欲に流され生きる麻也子。そして、そんな欲深いことを周りに悟られたくないために嘘に嘘を重ねる様子が絶妙に描かれています。

欲深いことを知らなかった女

『あなたのことはそれほど』では、主人公・美都が結婚した矢先にずっと思い続けていた人と再会してしまったがゆえにはじまる不倫。

ただ「好き」というだけで後先考えずに突っ走る美都ですが、確か第7話で「私ってこんなに欲深かったんだ」というようなセリフがあった通り、自分が欲深い女だったことなんて、まったく気付かなかった彼女。

夫以外の人にも不倫をすれば影響が及ぶなんてほとんど考えていないというところも特徴的だなと思いました。

家庭を壊すつもりはない2人

結局は好きな人のために離婚に至った麻也子ですが、当初はかまってくれない夫へのちょっとしたいたずら心からスタートしていたこともあり、家庭を壊すつもりなんて毛頭なかったはずなのです。また美都もただ好きな人と会いたかっただけ、夫にさえバレなければまったく問題ない、別に夫と別れるつもりはないというのが、『不機嫌な果実』と『あなたのことはそれほど』の共通点。

またもっと言ってしまうと、麻也子は夫のことを愛しているとは言っておらず、嫌いではないけれど別に大恋愛の末結ばれた仲でもなく、適齢期にちょうどいい相手だったので結婚した……というニュアンスが伝わる描き方になっています。美都も劇中で言っていますが「二番目に好きな人」であり、どちらも結婚したいタイミングに、夫としては体がいい相手だったから結婚、そしてその後、たまたま好きな人に出会ってしまった……ということも共通点として挙げられるでしょう。

20年後の麻也子の不倫とは?

夫と別れることは念頭になかった、適齢期にいい相手だったから結婚して、その後に好きな人に出会ってしまったという共通点はあるものの、『不機嫌な果実』から20年経って描かれる女の不倫はさすがに違いがあります。

麻也子は結婚生活の逃避から始まっていますが、美都は夫に出会う前からずっと片思いだった人に再会しまったことがきっかけであること。

その証拠に、麻也子は子離れしない義母との付き合いを面倒くさがり、マザコンなくせに家政婦のように自分を扱い、女として見てくれないことにうんざりしている猫写が登場します。

一方、美都のほうはほとんど夫側の家族との付き合いが出てきておらず、家事も積極的に行う夫なので、相手の家族との不和、夫が家のことを任せてくることが不満……なんて表現もありません。

だから、片思いの相手と再会しなければ、美都は不倫に走らなかったかも?

「好き」と「愛している」の違い

でも気になるのは、美都の恋愛は、不倫相手の有島の思い出をただ美化して頭の中で膨らんだ「好き」の執着心のように見えること。しかも第2話、第3話あたりで自分が思い込んでいた有島と違うことにも気づいているだけに、まるで「好きな人がいる自分に酔っている」ようです。それに「好き」とは言うけれど「愛している」というセリフは聞いたことがない気が。

一方、麻也子は大恋愛に陥る工藤のことを最初、邪険に扱っていたのですが、彼の真摯な態度にどんどん惹かれ……。その恋におちたときのニュアンスや工藤と想い合う姿がうまく描かれていて、「好き」ではなく「愛している」というにふさわしい表現がなされています。

時代を反映している?

この相違点を見ると、あくまでドラマの中での話だとしても、20年前よりも前から憧れていた、好きだった感情があれば不倫さえもしてしまうこと、そして、お互い想いが通じ合って感情が高まっていくような愛を求めるというよりも、相手がどう受け取ろうとかまわないから、自分の中で膨らませた恋心ひとつだけで行動につなげてしまう時代になってきているのかもしれないと思えてきます。

だからといって、恋が悪くて愛がいいというつもりはまったくなく。ただ『あなたのことはそれほど』は他人にかける情が自分の妄想力に偏りがちになっている今を反映しているドラマと言えるような気がしています。